全てが終わった。
葛西は病院のベットに横になっていた。
前田にやられた傷は容易に治るものではない。
今日は前田とやり合った後、すぐ病院へ来ていた。
病院へ行くのを拒む葛西を引きずってきたのは、坂本だった。
「入るぞ」
そう聞こえたかと思うと、返事も待たず個室のドアが開いた。
そこにいたのは、やけに晴れやかな顔をした坂本だった。
「俺が負けて嬉しいか」
坂本はすぐには返事をせず、ベットのすぐ横にあった椅子へと腰掛けた。
「嬉しいよ。分かったろ。止まっても誰も離れていかないって」
葛西は坂本を驚きの目で見た。
どこまで分かっていたのだ、こいつは。
「ひでぇ傷」
言葉のわりに嬉しそうな坂本は葛西の額に貼られたガーゼへと手を伸ばした。
「誰もお前から離れなかったろ。もう何も恐れることねぇんだよ、馬鹿」
「・・・」
「あいつら、来てたぜ?追い出されたけどな」
坂本が笑っている。ずっと見ていなかった、ずっと見たかった笑顔だった。
「俺は・・・」
「お前はいいんだよ、そのままで」
「・・・」
「お前は強いよ。そしてあいつらもお前を好きだよ」
葛西はかろうじて動く腕で目を覆った。
自分がしてきたことは本当にムダなことであったと、坂本を通じて分かった。
そして自分は泳ぎ続けていなくていいのだと、あの前田に教えられた。
坂本が頼った前田、あいつのことは認めたくはないが、今、坂本は隣にいる。
自分がやられた時、すぐに傍に来てくれた。
「泣き顔、俺に隠すなよ」
坂本の拗ねたような口調に、葛西は思わず目を覆っていた腕を外した。
目の前に、穏やかな表情の坂本がいた。
ああそうだ。忘れていた。
こいつはこんな慈しむような表情をするのだ。
「坂本・・・俺は」
「そのままで、いろよ」
坂本が「ここ、痛くねぇ?」と聞いた場所へと頭を預けて目を閉じた。
「やっと、戻ってこれた」
坂本の言葉の意図が分からず、「どこに」と問うたら坂本は目を開いて穏やかな
表情で言った。
「お前の、隣に」
葛西は正直、話すのもつらかったが、坂本にキスをねだった。
確かめたい。こいつが隣に戻ってきてくれたのを。
坂本は苦笑して、でも体を起して軽く葛西にキスをした。
「最後までやれねぇのは辛ぇな」
そんな言葉に、坂本は「馬鹿」と言って葛西の頬を叩いた。
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