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あの頃2





卒業・進路・恋愛。

いつか離れてしまうのだろう。
坂本が行く高校は聞いてない。だが自分が選んだ所には間違いなく来ないだろう。
あまり公にはしたくないが、葛西だって真面目にやれば勉強は出来たのだ。
しかし素行の悪さや、本人がやる気を出さなかったおかげで、入学出来るのは正道館
だけだった。

坂本も勉強は出来た。
中学の時、貼りだされたテストの結果発表に幾度か名前があがっていたのを思い出す。

高校は離れるだろう。
坂本のことだ、好きな女とも上手くいっているかもしれない。

「くそっ・・・!!」

葛西は目の前で倒れている奴の腹を蹴飛ばした。
苦しげな声が聞こえたが、無視して蹴り続けた。
もう今は自分の苛立ちの原因に気づいてしまっている。
笑えたものだ。始まる前から、終わってしまっている。
あとは自然にまかせて離れていくだけだ。
そう、終わるだけだ。

「はあ・・・はあ・・・」

一通り蹴り飛ばした後、その場に葛西だけ立っていた。
その時、もう聞きなれた声が響いた。

「葛西!」

振り返ると、坂本がいた。
葛西の名前を叫んだわりには、呆れた顔をしている。

「・・・なんだよ」
「あーあ遅かったか・・・またすげえ人数相手にしたな」
「うるせえよ」

坂本が笑いながら近寄ってくる。
もう見たくない笑顔と、もっと見たい笑顔。

「もう終わったんだろ?帰ろうぜ」
「よくここが分かったな」
「偶然だよ」

坂本の、笑顔。
もう離れるのに、別れてしまうのにもっと色んな表情が見たくなる。
ずっと一緒だったのに、この思いは尽きることがない。
それでも、優しい言葉をかけることは出来なくて。

「さっきの女はいいのか」
「・・・っ!!」
「結構いい女じゃねえか、付き合わねえのか?」
「見てたのかよ・・・悪趣味だな・・・」

坂本が睨み上げてくる。
その瞳の奥に、すこし怯えてる様子が伺えた。
何故だ、と葛西は思った。
坂本が葛西に怯えるはずがない。

「全部・・・聞いてたのかよ」
「聞こえてたんだよ」
「・・・・・・そっか」
「お前に好きな女がいたなんて知らなかったな」
「・・・・・」

今まで言わなかったことが気まずいのか、知られたことが気まずいのか、坂本は無言
になった。
葛西はタバコを銜えた。

「帰るんだろ、行くぞ」

葛西は地面に放ってあった鞄を手にした。

帰り道、坂本はずっと無言だった。
(まあそりゃ、気まずいだろうな)
親友とはいえ、今まで秘密にしていたことを知られてしまったのだ。
だがフォローする気にもなれない。
自分だってまだ苛立っているのだ。

突然、坂本が足を止めた。

「どうした?」

それに気づかず数歩歩いてから振り返る。

「葛西さ、正道館だよな?」

そう言った坂本の顔はまだぎこちなかった。

「ああ。前にも言っただろ」
「俺もそこにしたから」
「・・・あ?」
「だから、俺も正道館にした」

坂本は笑ってみせた。

「馬鹿かお前。わざわざあんなクソみてーなとこ選ぶ必要ねーだろ」
もっと上を狙えるのに。
「だって、葛西、行くんだろ?」
「お前・・・それが理由じゃないだろうな」
「え?それ以外ないだろ」
「お前な・・・」
「俺以外、誰がお前の暴走止めるんだよ」

その言葉に葛西は笑った。
今まで葛西がやり過ぎていたら、止めるのは坂本の役割だった。

「握手でもすっか?これからもよろしくって」

坂本は笑っていた。

「馬鹿言ってんじゃねー。気色悪ぃ」

葛西も笑みがこぼれてきた。
だから気付かなかった。
坂本が横で一瞬暗い表情になったのを。






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