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泳ぎ続ける君へ9









全てが終わった。

坂本が病室に行くと、個室の中はからっぽだった。
坂本は迷わず屋上へと足を向けた。

重い扉を開けると、ガウンを羽織った金髪がタバコを燻らせている。
知らず笑みがこぼれる。

「こら、重傷人」
「来たのか」
「うん」

葛西に並んでフェンスの下を見ると、正道館の輩がたむろしていた。

「あーあ、あれ警察呼ばれてもおかしくねぇよなあ」
中には花束を持った奴までいる。坂本は声を出して笑った。
ひとしきり坂本が笑った後、葛西が口を開いた。
「俺はあいつらの誰一人信頼なんてしてなかった」
葛西は病院から追い出される面々を見て、ポツリと言った。
「ああ、知ってるよ」
「・・・」
坂本は言葉を返さない葛西を後から抱きしめた。
「やっと止まってくれたな」
「・・・」
「もう泳ぎ続けなくていいんだよ」

もう怯えることなんて、なにもない。
止まっても、お前が死ぬことなんてない。
立ち止っていい場所を、やっと得ることが出来たな。

「坂本・・・」
「ん?」
「それでも、俺はなめられたら、またやるぞ」
「あははっ。いいよ。もう好きにやれよ」
「おい・・・」
「信頼してるからな」

葛西が驚いたカオをする。
俺はそんな葛西にキスをした。

「俺ももう離れねえ。信頼しろよ?」

葛西は返事の変わりに俺をきつく抱きしめた。



一方、お見舞いにきていた正道館の面々は、追い出されながらも屋上でくっついて
いる金髪と黒髪にくぎ付けになってため息をこぼしていた。





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