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プロポーズ2









他愛もないことを話しながら、中央公園へと着いた。
COREを出たのが遅い時間だったので、公園に着いた時にはもう日は暮れており、
人影もまばらだった。

坂本は俺のスペースを空けてベンチに座った。
俺も横に並ぶ。
タバコを吸おうとした時、「ほらよ」と先ほどの肉まんが渡された。
「すっかり冷めちまってるじゃねーか」
手にした肉まんはもうひんやりとしている。
「贅沢言うな」
坂本は意味不明に俺に命令して、冷めきった肉まんをほうばっていた。
「今日のこれは、なんなんだよ」
「ん?」
「なんでこんな時間にこんなトコで肉まん食ってんだよ」
俺はしかたなくその冷めきった肉まんを食った。
俺が食い終わって、タバコに火を点けてもまだ坂本は無言だった。
坂本は肉まんの包み紙をコンビニの袋へと押し込む。

しばしの沈黙が流れた。
だがこいつといると沈黙は苦ではない。
俺があれこれと口の軽い性格ではないということも坂本は知っている。
俺は坂本の言葉を待つことにした。
坂本は先ほどから一点をずっと見たり、公園を見回したりしている。
珍しくタバコも取り出した。
「あ、葛西、火、くれ」
「ライターぐらい持っておけ」
俺は坂本の肩を引き寄せて自分が吸っているタバコの先端を坂本のタバコに
押しつけた。
「サンキュ」
坂本がこれほど旨そうにタバコを吸う姿は初めてみるかもしれない。

長い沈黙のあと、坂本は突然肩を揺らして笑い始めた。
一本だけ吸われたタバコは足元に落ちている。
「おい・・・?」
坂本の不審な挙動に思わず尋ねる。
「わり・・・はは・・・俺、かなりキテるかも」
坂本はそう言って、両手で顔を覆った。
一瞬泣くのかと焦った。坂本に泣かれるのは好きではない。
ただそれは杞憂に終わった。
坂本は手の位置をずらし、鼻と口を覆ってまっすぐ前を見た。
「今日のさ、確かに、変だったろ」
「ああ、何があった」
俺の質問には答えず、坂本は話し始めた。
「俺さ・・・今まで何にも執着とかしなかったんだよな・・・。我慢してとかじゃ
なくてさ、そういう性格なんだよ。どれも別にどうでもいい、そんな感じでさ。」
坂本は目を細めた。
「両親が俺に興味なくてもどうでもよかったし。誰かに対して特別な思いなんて
持ったことなくてさ、でも・・・」
坂本はまたタバコを取り出した。俺はさっきと同じ方法で火を点けてやった。
坂本は深く息を吸い、吐き出す。
「思い出作りたいとか、思うなんて、思わなかったな」
「思い出?」
坂本はちらりと俺の方をみやり、頷いた。
「俺ら、来年でもう卒業だろ。こうやってられんのももう今だけなんだよな」
「俺から離れる気か?」
思わず声が出た。
来年卒業したら、もうこうして二人では会わないということなのか。
そしたら、坂本がすぐに言葉を返してきた。
「離れるつもりなんて、ねーよ」
「おい、お前今・・・」
「今、ってことだよ。こうやって制服来て、学校帰りにこうやって一緒にいられる
のって、今だけだろ」
その言葉に安堵の息がもれる。
「お前とは、色々思い出残したいって思ったんだよ」
「坂本・・・」
「笑えるだろ。女でもねーのに」
そう言って笑う坂本を引き寄せて、俺は坂本にキスをした。
坂本も背中に腕を廻してくる。
「帰るか」
「ああ」
多分、思っていることは二人同じだ。
体を離し、立ち上がった所で坂本が言った。
「前田をあそこで倒したんだよな」
「その名前を出すな」
そう言うと、坂本は声を出して笑った。







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