二人で一緒に風呂に入り、ベットで缶ビールを開ける。
「ビールってマジ腹出るらしいぜ」
面白そうに坂本が言う。
「そりゃ動いてねーからだろ」
「確かにな。お前ぐらい動いてれば平気かもな。変な使い方してるけどな」
「向こうからかかってくんだ。しかたねぇだろ」
俺が前田にやられたということは池袋に知れ渡っていた。
それからは調子にのった馬鹿どもが正道館を狙ってきた。
仲間をやられたこともあれば、直接俺に来たこともあった。
しかし未だにタイマンになったことがない。
呆れた連中を相手にするのはかなりウザかったが、負けるわけにはいかなかった。
「でもそれも卒業したら終わんのかな」
「どうだろうな」
「後輩の面倒まで見るつもりか?」
「場合によっちゃあな」
そう言うと、坂本はやけに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
何故かと思ったが、それよりも今日気付いた気がかりなことを問うことにした。
「お前、進路どうすんだ。進学か?」
「まだわかんねーよ。なんだいきなり?」
「家出るんだろ」
「ああ」
坂本は中学時代から家を出たがっていた。
あまり家のことを話したがらない坂本だったが、「早く独立してぇ」とはよく
言っていた。それは俺も同じことだが。
だからこれは言ってもいいものかと、らしくなく思っていたことがある。
「俺から離れねえっつたよな」
「ああ、離れるつもりなんて、ねーよ」
「うちに来るか?」
「え?」
坂本の目が驚きに見開かれる。
俺は目をそらして言った。
「実質この家は俺が持ってるようなもんだ。俺が成人したら正式に受け渡される
ことになってる。今はあいつら海外で家持ってるしな。この家に来ることはねえ」
「お前、は、・・・いいのかよ?」
「離れねえんだろ?」
そう言うと坂本は俺に抱きついてきた。空になっていたビールの缶が床に転がる。
「でも・・・いいのか?家賃とか・・・」
いきなり現実的なことをいうそのらしさに笑みがこぼれる。
「まぁ税金とかあるけどな。ああ、ここ売っぱらっちまってマンションでも借りる
か?」
「いやそこはアパートだろ」
「どっちでも構わねえよ」
「そうだな・・・」
そうだな、どこでもいい。二人でいられるなら。
坂本のそんな声が聞こえたような気がした。
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