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プロポーズ4









二人で一緒に風呂に入り、ベットで缶ビールを開ける。
「ビールってマジ腹出るらしいぜ」
面白そうに坂本が言う。
「そりゃ動いてねーからだろ」
「確かにな。お前ぐらい動いてれば平気かもな。変な使い方してるけどな」
「向こうからかかってくんだ。しかたねぇだろ」

俺が前田にやられたということは池袋に知れ渡っていた。
それからは調子にのった馬鹿どもが正道館を狙ってきた。
仲間をやられたこともあれば、直接俺に来たこともあった。
しかし未だにタイマンになったことがない。
呆れた連中を相手にするのはかなりウザかったが、負けるわけにはいかなかった。

「でもそれも卒業したら終わんのかな」
「どうだろうな」
「後輩の面倒まで見るつもりか?」
「場合によっちゃあな」
そう言うと、坂本はやけに嬉しそうな笑顔を浮かべた。
何故かと思ったが、それよりも今日気付いた気がかりなことを問うことにした。
「お前、進路どうすんだ。進学か?」
「まだわかんねーよ。なんだいきなり?」
「家出るんだろ」
「ああ」
坂本は中学時代から家を出たがっていた。
あまり家のことを話したがらない坂本だったが、「早く独立してぇ」とはよく
言っていた。それは俺も同じことだが。
だからこれは言ってもいいものかと、らしくなく思っていたことがある。
「俺から離れねえっつたよな」
「ああ、離れるつもりなんて、ねーよ」
「うちに来るか?」
「え?」
坂本の目が驚きに見開かれる。
俺は目をそらして言った。
「実質この家は俺が持ってるようなもんだ。俺が成人したら正式に受け渡される
ことになってる。今はあいつら海外で家持ってるしな。この家に来ることはねえ」
「お前、は、・・・いいのかよ?」
「離れねえんだろ?」
そう言うと坂本は俺に抱きついてきた。空になっていたビールの缶が床に転がる。
「でも・・・いいのか?家賃とか・・・」
いきなり現実的なことをいうそのらしさに笑みがこぼれる。
「まぁ税金とかあるけどな。ああ、ここ売っぱらっちまってマンションでも借りる
か?」
「いやそこはアパートだろ」
「どっちでも構わねえよ」
「そうだな・・・」
そうだな、どこでもいい。二人でいられるなら。
坂本のそんな声が聞こえたような気がした。






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