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約束6









離れることなんて、考えられなかった。



坂本が泣きやみ、葛西の背に腕を廻しても、葛西は坂本を抱きしめたまま動かなかった。
この腕の中の存在を失いたくはない。
いつだって隣にいて欲しい。
「いつも・・・悪ぃ」
それは葛西が漸く絞り出した言葉だった。
「・・・ホントにな・・・」
坂本の声はさっきまでと違っていた。笑いを含んでいる。
葛西は少し体を離して、坂本の顔を見た。濡れているその頬に触れる。
もう坂本は笑っていた。
葛西の好きな、穏やかな笑顔だった。
今度は葛西が、坂本の肩に顔を押し付けた。
坂本の体温がすぐ近くに感じられる。
いつだって、何があっても、坂本はここにいてくれる。
自分の、すぐ傍に。
葛西は目を閉じた。
「もう離れんな。・・・頼むから・・・」
そう言った声は、自分のものとは思えない程弱く響いた。
でもそれで構わなかった。
何よりも、今の自分の本心だった。
「離れないよ。ここにいる」
坂本の声は穏やかだった。
葛西は坂本を抱きしめている腕に、力を込めた。
坂本が離れていったと感じた、あの時。
「言いてぇことあったら、言えよ」
「葛西?」
「・・・もう二度と殴らせんな」
葛西の声が震えた。
あの時、坂本の声に耳を傾けることをしなくなった。
そしてお互いを傷つける判断を坂本にさせた。
二度とあんな真似はさせたくない。
もうあの時とは違う。坂本の声を今は受け止めることが出来る。
葛西は顔を上げた。口の端を上げて笑う。
「ちゃんと聞くからよ」



穏やかな笑顔を返した坂本に顔を近づける。
二人は軽く、唇を合わせた。
葛西は坂本から顔を離し、時計を見て少し考え、舌打ちをした。
「葛西?」
「今すぐヤリてぇけどな」
「・・・いいけど?」
「んな顔すんな馬鹿。学校行くぞ」
「今から?お前が?」
「うるせぇ。西島が心配してんだよ」
「は?」



自分のこととなると鈍くなる坂本を引っ張り出し、学校へ行く途中で簡単に事情を説明すると、坂本は少し
申し訳なさそうに頬をかいた。
授業中に詫びることもなく二人が教室へ入ると、西島は満足そうに笑った。






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