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坂本の大切なもの 3









それは葛西も持っている写真だった。
自室の机の引き出しに、閉まっているものだった。




中学の校門の前で、坂本と葛西が卒業式の看板を挟んで立っている。
片手に卒業証書の入った筒を持って。
坂本の髪はまだストレートだが、葛西は今と同じスタイルだ。
二人とも、軽い笑みを浮かべている。
卒業式の時、仲間に撮ってもらった写真だった。




「・・・昨日取りに行ったのって、これか?」
葛西は写真を坂本に返した。
「流石に鋭いな」
坂本は目を細めて写真を見た。
「家に帰った時とか、時々見てたんだけどよ。なんか持っていたくなったんだよ。お前と二人で写ってるのってこれ
しかねーから」
四天王抗争の時、葛西の家に泊まることを止めた。
夜、自室で見ていたのが、この写真だった。
葛西の思いを疑ったことなどない。
それとは全く別の問題だった。
どうすれば止まってくれるのか、どうすれば葛西が安心することが出来るのか。
この写真を見ながら、坂本はずっと考えていた。
そして止まってくれた葛西。
仲間を信頼し、本心で笑う葛西を、前よりずっと好きになった。
そしてふと、葛西の写真を持っていたくなった。
それは独占欲と呼べるものかもしれない。
葛西が苦しんでいる時、これを見たら苦しかった。
だが今は、こんなにも心が温まる。
なんてことは、言うつもりはないが。




「落としてんじゃねーよ、馬鹿」
無言で写真を見続ける坂本に、葛西は笑って言った。
「今度から気をつけねーとな」
坂本は何やらとても嬉しそうに、幸せそうにその写真を生徒手帳に挟み、胸ポケットに閉まった。
「今日はうち来んのか」
「ああ、今日は行くよ」
今日は、二人で一緒に過ごそう。
「葛西、明日はちゃんと起こすからな。遅刻するんじゃねーぞ」




後日、同じ写真が葛西の胸ポケットにも仕舞われていたとか、いないとか。






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