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たとえばこんな日 2









家に着くと、坂本は靴を脱いだ途端葛西に腕を引かれた。
抵抗することはしなかった。これは坂本も望んでいること。




部屋に入り、カーテンを閉めていない薄暗い部屋の中で向き合う。
葛西の手が坂本の頬に触れる。
坂本は葛西の顔が近づいてくる気配に、目を閉じた。
「・・・ん・・・」
始めは軽く繰り返していたキスが、葛西の手が後頭部に行くにつれ深くなる。
何度も角度を変えるその口づけに、坂本は葛西の背に腕を廻した。
坂本は足の力が抜けていくのを感じた。
手を葛西の胸に当て動きを制する。
「ベット・・・行こうぜ・・・」
少し息の荒れたその訴えに、葛西は少し笑い、坂本を軽々と持ち上げた。
そのまま坂本はベットに押し倒される。
「馬鹿力」
「うるせぇよ」
笑いあい、口づけを交わしている間に、坂本の制服のボタンは慣れた葛西の手によって全部外された。
「ん・・・」
首筋に葛西の舌が這い、熱い手がTシャツの中に入ってくる。
葛西は坂本の首や耳に口づけし、肌の感触を確かめるように手を動かした。
ひとしきりその行為をされ、坂本は息があがっていくのを感じた。
「あっ・・・」
葛西がTシャツをまくりあげて、胸の突起を口に含む。
何度も舐められ、軽く噛まれる度に坂本の体に力が入った。
たまらず坂本は膝を立て、葛西の体に足を押し付ける。
それが合図だったかのように、葛西の手は坂本の足を撫で、その中心部へと伸びていく。
布越しに何度も撫でられ、坂本は葛西の首に廻していた手に力を込めた。
「か、さい・・・あっ・・・」
葛西は器用に片手でベルトを外し、直に坂本自身を握りこんだ。
その手に力が入り、擦られる度、坂本の腰が浮いた。
「葛西・・・んな、触んな・・・」
坂本は溜らず立てた膝を葛西の体に再び押し付けた。
「やけに急かすな。すぐ出そうか」
「なんか今日はな・・・もう、いいから・・・来いよ」
好きな相手に触られている、もうそれだけで、どうにかなってしまいそうだった。
でも、一人は好きじゃない。
同じように葛西にも感じて欲しかった。
葛西は坂本に軽く口づけたあと、自身の指を舐めて、坂本の奥へとその指を滑らせる。
「ん・・・」
「平気か」
「ん・・・うあっ」
「平気だ」と言おうとした所を、葛西の指に弱いところを刺激された。
「葛西!」
「ははっ怒んじゃねーよ」
「・・・たく」
指を抜き、身を沈めてきたそのしょうがない背中に、腕を廻す。
「あ・・・あ・・・」
葛西が身を進めると、どうしようもない熱が坂本を襲う。
無意識に逃れようとする腰は、葛西の手によってしっかりと止められていた。
「・・・っ・・・動くぞ」
「ああ・・・」
葛西の声にももう余裕は見られない。
坂本は葛西の背に廻している腕に力を込めた。
葛西が腰を進めてくる。
もう知り尽くされた体。理性を飛ばすのは容易なものだった。
「ああっ・・・あっ、うあっ」
「・・・っ・・・坂本っ・・・」
「葛西・・・か、さい・・・っ・・・んっ・・・」
坂本の目から生理的な涙が零れた。
律動が緩められ、深く口づけられる。
「はぁ・・・あっ・・・葛西っ・・・」
耳元に聞こえる葛西の短い息遣いにさえ、煽られてしまう。
坂本の全身に力が入った。
「葛西っかさい・・・っ・・・もっ・・・」
「ああっ・・・」
葛西の動きが激しさを増した。
坂本の弱い所だけを攻めてくる。
もう限界だった。
「うあっ、あっーーー・・・」
「っ・・・」
坂本は己を手放した後、体の中に流れる熱を感じた。



二人で風呂に入り、坂本がベットの縁に座っていると、葛西が缶ビールを持って部屋に入ってきた。
「ほらよ」
「サンキュ」
葛西も坂本の横に座り、缶ビールを開けた。
坂本は先ほどから自覚していることがある。
これが葛西にばれないわけがない。
「なにさっきから嬉しそうにしてんだよ」
やっぱりばれていた。
これは自分ではどうしようもない。抑えようとしても湧き上がってきてしまうのだ。
「やっぱばれたか。なんか、理不尽かもしんねーけど、嬉しくてさ」
「なにがだよ」
そっけない葛西の言葉。それでも興味を持っていることはひしひしと伝わってくる。
坂本はビールを一口飲んで、笑顔のまま缶ビールをじっと見た。
「お前、やけに気にしてただろ。昼間のこと俺が気にしてるかどうか」
「別にそんなに気にしてねーよ」
「それが、嬉しかったんだよ」
「なんでだよ」
「お前が、俺を、気にかけてくれていたことがな」
そういうと、葛西は勢いよく坂本を見た。
どうやら自覚はなかったらしい。
坂本が気にしているかどうか気になる。それは葛西の思いが坂本に向かっていることを示していた。
「わけわかんねーよ」
照れ隠しか、本当に意味がわかっていないのか、葛西は坂本から視線を外した。
しかしその行為で分かってしまった。
葛西は理解している。そしてそのことを自覚して気恥ずかしいのかもしれない。
他では絶対見せない、葛西のそういう態度。
坂本は笑って、葛西の肩に頭を乗せた。
しばらくの沈黙が流れた。
それを破ったのは、葛西だった。
「おい」
「んー?」
「滅多に言わねえからな。よく聞いとけよ」
「何を?」
そう言う坂本の肩を、葛西は片手で抱き寄せた。
坂本の耳に葛西の息がかかる。




「好きだ、坂本」



「・・・もっかい言えよ」
「誰が言うか」
「はっはっは」
笑って、笑い声でごまかせただろうか。
目が、声が、揺れてしまったことに。






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