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あの頃




「とうとう卒業しちまったな」

卒業式の帰り、下駄箱から靴を取り出しながら坂本が笑いながら言った。
その言葉に葛西は笑みを洩らした。
坂本の言葉からはなんら悲しみの表情は伺えなかった。

つい数日前のことを思い出す。

葛西は不機嫌に暴れていた。
ただでさえ悪い目つきを鋭くして、街中を歩いていて絡んできた奴らを徹底的にぶち
のめした。
分かっていた。「終わり」が近づいていることに。
もう一緒にはいられないということに。

今日、坂本が他校の女に告白されているのを見た。
帰りを一緒にと考えていたが、坂本が不在だったのでしぶしぶ一人で学校を後にした。
その場面を目撃したのは偶然と言っていい。
学校近くの路地裏、坂本と小柄な女生徒がいた。
嫌でも会話が聞こえてきたが、葛西はそこから動けなかった。
そして坂本が断った声も聞こえてきた。
それは葛西にとって衝撃的なものだった。

「悪い、俺、好きな人、いるから」


中学で出会って、いつも一緒にいた。
離れていた時は、家に帰って眠る時ぐらいなものだ。
それすら一緒の時があった。

しかし葛西にも彼女がいた時期があった。
何回なんて数えてはいない。
来るもの拒まずだったのだ。
そういう時は、坂本は流石に遠慮してか、自分より少し距離を置いた。

そんな時は、いくら彼女といても坂本との距離に苛立った。
結局意識は坂本の方に向き、彼女と言える対象はめんどうくさくなって別れる、とい
うパターンだった。
その頃は何故こんなに離れていることに苛立つのか考えなかった。
考えたら、いけないと思った。
あいつの傍は居心地がいいから。
そんな理由でごまかしていた。

いつも一緒にいた。
坂本に好きな女がいたなんて思いもしなかった。






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