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あの頃another side









「とうとう明日卒業か」

隣を歩く坂本が言葉に反した明るい口調で言った。
理由は分かっている。
卒業しても、こうしてまた二人でいられるのだ。
ただ、それだけの理由だろうか。
葛西は気になっていた。

一緒の高校へ行こうなどと、口にしたことはなかった。
ただどこへ進むのだと聞かれた時に、正道館と告げた時の
坂本の嬉しそうな顔が、今でも目に焼き付いて離れない。

あまり公にはしたくないが、勉強はそこそこ出来るのだ。
受験は余裕だと知っているはずなのに、合格を知らされた時
当たり前のように自分の家にいた坂本は、自分の合格よりもひどく喜んだのだ。

自分より勉強の出来る坂本が合格するのは間違いなかった。
発表を見に行くのも個人的にだるかったので、
同じく正道館を受けたツレに結果を報告してくれるよう頼んでいた。


何も言わなかった。
それでもいつも隣にいた。


今日葛西は知らない女子から告白を受けた。
よほど自信があったのか、場をわきまえない女なのか、
坂本と校門へさしかかった時に呼び止められ、
その場で告白をされた。

後ろには坂本がいる。
坂本は遠慮して先に行ってると言ったが、それは止めた。
聞いて欲しいことがあったのだ。
葛西はその女子に向き直り、一言だけ放った。

「無理だ」

女子は相当ショックを受けていたが、自分には関係ないことだ。
それよりも、反応が気になる奴が後ろにいるのだ。
葛西はすぐに踵を返し、坂本へと歩み寄り、行くぞ、と先へ進んだ。
坂本の顔は見れなかった。


同じ高校へ進むのだから、焦ることはないとは思っている。
それでもいつか気づいていた。この独占欲に。








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