バキ!ドカ!
人を殴りつけ蹴り飛ばす音と、正道館の連中がそこにはいた。
目の前の、人目につかない空き地では一人の男が20人あたりの相手をして暴れて
いた。
葛西だ。
取り巻きの連中は、ここぞとばかり喝采を送る。
勝敗は明らかだった。
数分後、その場に立っているのは葛西だけとなった。
「おらよ、寝てんじゃねえよ」
挑んできた輩の頭と思える男がうつ伏せに倒れている。
葛西は足でひっくり返し、躊躇することなくその腹に蹴りを入れた。
骨の折れる音がした。
「ぐわっ!!」
傲岸不遜な態度で葛西は笑みまでももらしつつタバコを吸い直した。
「もう一発、行くか?」
坂本はそれまで黙ってその光景を見ていたが、葛西に近寄った。
「葛西、もういいよ」
「うるせえな坂本。俺に指図すんじゃねえ」
「葛西」
「葛西さん、もっとやっちゃって下さいよ」
取り巻きの声が遠くに聞こえる。
だが坂本は葛西しか見ていなかった。
目の前の野獣を、止めることしか考えてなかった。
葛西の腕を掴んでいた手に力をいれると、葛西は舌打ちをして踵を返した。
「話しにならねえな」
薄笑いでそう言い残して。
喫茶COREでは先ほどの葛西の圧倒ぶりに正道館の輩は盛り上がっていた。
「やっぱすげーな、葛西さんは」
「次、どこ狙うんスか?」
沸き立つ店内で、坂本は俯いていた。
やめろ
もうそれ以上煽るな
坂本は気づいていた。
葛西が怯えながら戦っていることに。
今目の前で笑っているその瞳の奥には、子供の孤独が残っていることに。
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