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泳ぎ続ける君へ4









「なんで最近俺を避ける」

坂本はギュッと目を閉じた。
聞かれるであろうことは、少し予想していたことだ。
しかし問われることはもう無いだろうとも思えてきた所だった。

「一週間ぐらいになるな。登校ん時も帰る時も時間ずらしやがって。飯時だって
避けてるな」
「・・・別に・・・気のせいじゃねぇのか」
声が震える。
「ふざけんな。言いたいことがあんならはっきり言え」
坂本は俯いたままだった。
色んな想いが交錯する。
また誤魔化そうと、葛西を見上げた時、坂本は驚きに目を見開いた。
葛西の瞳の奥、そこに、悲しげな色が浮かんでいた。
「てめえが離れて、気付かねーわけねーだろ。なにがあった」
不遜極まりない態度で言う葛西の瞳の奥が揺れている。
言ってもいいのだろうか。
俺が離れただけで、葛西は不安に思ってくれていたのだろうか。
坂本は一瞬唇をかんだ。

「・・・お前の・・・傍にいんの・・・辛い」

漸く振り絞った本音が、この言葉だった。
次の言葉を遮ったのは、葛西の間髪入れない言葉だった。
「そうか・・・ならいい」
葛西はすぐにベットから離れて坂本から離れた。
坂本は実感した。もう俺はいらないんだと。
悲しくて悲しくて、笑えてきた。
「ははっ・・・」
泣きそうになる鼻声でうわずった声に、葛西が振り返る。
「やっぱ・・・もう俺、いらねえんだな」
「・・・なんのことだ?」
「言葉通りだよ。俺のこと、もういらねぇんだろ」
まるで付き合っていた二人の別れ話だ。そう思えたらまた笑えてきた。
「もう俺が隣にいなくてもいいんだろ。お前には舎弟さえいればい・・・」
「ふざけんな!」
葛西は再度坂本のベットに近づき、その襟を掴んだ。
「俺がいつてめえをいらねぇなんて言った!」

坂本はその言葉に絶句した。
葛西は本気で怒っている。
だがこの言葉は危険だ。今の自分にとって危険すぎる。後に、ひけなくなる。
「舎弟がいるだろ・・・それでいいんじゃねぇのか・・・」
自分でも情けないと思ったが、声がどんどん弱くなっていく。
「そういう意味かよ・・・」
「え?」
葛西は舌打ちをして、坂本の唇に己の唇を押し付けた。






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