必死だった。誰よりも大切な人を、守る為に。
前田を地面に沈めた後、あばらを折ろうとしている葛西に坂本は焦った。
このままでは本当に死んでしまうかもしれない。
前田には申し訳ないが、この時坂本の頭にあったのは、葛西のネンショ―入りだった。
「死ぬぞ!」
あの時交わした約束を、もう覚えていないだろうか。
俺は、お前と一緒に卒業したいんだよ。葛西。
葛西はなんとか思いとどまってくれた。
坂本は息を吐いた。
ゾロゾロと正道館の連中が後を去っていくのを見る。
救急車を呼んだ後、遅れて二人の帝拳の男女がやってきた。
女子の方は倒れている前田にしがみ付き、大声を出して泣いていた。
正直、その素直な態度が羨ましかった。
あの日、葛西の部屋を飛び出してから、葛西とろくに話していない。
情報収集で忙しいのもあったが、葛西を止めたい思いは、葛西と二人きりになる
ことを避ける要素にもなってしまった。
傍にいると、どうしても止めてしまいたくなる。
でも葛西は聞く耳を持たないだろう。
裏切りと思われるならそれでもいい。
お前が止まってくれるなら。
前田でさえも止められなかった葛西。
いいよ。俺が止めるよ。俺の気持ちを、知ってくれ。
葛西の攻撃を受けながら、痛くて仕方がなかった。
殴られている痛みより、自分を殴らせてしまっていることに。
葛西の必死の孤独に。
涙が出た。
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