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プロポーズ1










「葛西、帰り公園寄って行こうぜ」
放課後、学校を後にして喫茶COREを出た時坂本が言った。
珍しいことだった。
普段坂本はCOREを出てから自発的にあまり寄り道をしない。
俺が喧嘩をするとなるとついては来るが、大抵はそのまま(ほぼ俺の家に)
まっすぐ帰るのだ。
他にも俺が用事がある時はつきあわせたりしていたが、坂本から誘ってくるのは
珍しかった。
「別にいいぜ」
今日は特になにもない。
どこかと対戦する予定がなければ、俺には用事はないようなものだった。

「珍しいな」
COREを出てから、俺は思いのまま隣を歩く坂本に言った。
もう吐く息が白い。
「ん?なにが?」
坂本が俺を見上げる。その瞳の奥からは、なにか憂い気のようなものが感じられた。
「なにかあったのか?」
「・・・別に。あ、葛西、コンビニ寄りたい」
ちょうど目の前にコンビニがある。
なにかのキャンペーンか知らないが、設置された旗が風に揺れていた。
坂本は肉まんを二つ買ってコンビニを出た。
俺はタバコだけを買った。
「二つも食うのかよ」
「一つはお前に気まってるだろ」
「なんだ?奢りか?」
「馬鹿言うな。後で払えよボンボン」
俺は坂本の後頭部を軽く殴った。
俺の家が金持ちだということは坂本はよく知っていた。
家族が滅多に帰ってこないことも。
ただボンボンと言われるのは癪にさわる。
別に俺が稼いだ金じゃない。それになにか壁を思わせる言葉だ。

小突かれた坂本は声を出して笑っていた。
俺のすぐ隣で笑う坂本。こいつが俺から離れていくとは思わなかった。
坂本が離れていた時期、自分でも分かるぐらい苛立っていた。
なぜここにいない、なぜ離れている。何も変わらないんじゃなかったのか。

俺は知らなかった。坂本が俺の為に必死だったということを。
俺を心から案じてくれていたことを。

前田にやられ、病室で寝ていた俺の胸に頭を乗せ、坂本は言った。
「やっと止まってくれたな」
その言葉に漸く理解した。
坂本は俺が心の奥で苦しんでいることに気づいていた。
その苦しみが、坂本を苦しませていた。
それでもあの頃は、仲間を失うことを恐れていたのだ。
「勝たなければ」と、それしか思っていなかった。
それでも坂本は俺を見捨てることはしなかった。
どうにかして、俺を止めようとしていた。
「俺はお前の隣に戻りたかっただけだよ」
全てを知って、一言「悪かったな」と言いかけた時、坂本は言った。
「結局は全部自分の為だったんだよ。葛西が謝る必要はねーよ」
そう笑った坂本。
四天王狩りが警察沙汰にならないようにまで気を配っていたというのに。
あくまで俺に負担をかけない、恩着せがましくしない態度にこいつはどこまで
俺に甘いんだと思った。


坂本を殴った痛みは忘れない。
人を殴ってあんなに痛みを覚えたのは初めてだった。







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