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クリスマス・イヴ









窓の外ではかなり気温の下がった風がふいていた。
日中は比較的温かかったが夜になって一段と気温が下がったようだ。
葛西は隣で動く気配に目を開けた。まだ眠りには落ちていなかった。
横を見ると、坂本がこちらへにじり寄ってくるのが見えた。
「どうした?」
「寒ぃ・・・」
葛西は体を坂本へと向け、腕を伸ばしベットへ置いた。
坂本は自然な動作でその腕へ頭を置き、葛西の体にぴたりと寄り添った。
「相変わらず寒さに弱えーな。暖房入れるか?」
「いや・・・いい・・・」
最後の言葉は微かな響きとなり、寝息へと変わっていった。
葛西は布団を坂本の肩まであげ、自分も眠りへと落ちていった。
眠る前、坂本を見ていた葛西の目はこの上もなく優しい色を帯びていた。



「葛西っ起きろーっ」
かなり明るくなった室内に、陽気な声が響く。
葛西はまどろみの中から思いっきり強引に呼び戻された。
部屋に差し込んでくる光が寝起きの目には眩しい。
布団を顔まで引き上げて光を遮断しようとしたが、別の手がそれを頑なに阻止してくる。
「・・・引っ張んじゃねぇよ」
他の者が聞いたら恐怖を覚えそうな低く響く声だったが、生憎この相手にはそれは通じなかった。
「天気いいんだよ。洗濯してぇんだ。さっさと起きて着替えてくれ」
坂本は葛西の防御壁をぐいぐいと引っ張る。
葛西は舌打ちをして起き上がった。
無人となったベットからは坂本がシーツをはぎ取っている。
葛西は洋服を置いてあるアルミシェルフに近づき着替えを始めたのだが、脱いだ洋服もまたたく間に
坂本の腕の中へと収まっていった。
「朝飯、出来てるから食えよ」
「ああ」
一体坂本はいつ起きたのだろうか。
時計を見ると10時になる少し前だった。
休日に起きる時間としてはちょうどいいだろう。
よく働くものだと、葛西は何度目になるかわからない感心をした。



部屋を出て顔を洗い、リビングへ行くとテーブルには朝食が用意されていた。
昨晩食べたカレーがスープへと変貌を遂げている。
トーストされたパンをほおばり、すぐ横の庭へ続く窓の外を見ると、坂本が洗濯ものを干していた。
洗濯機が動いている音がするので、今干しているのは一回目のものなのだろう。
葛西が朝食を済ましタバコを吸いながら庭へ出た時には、坂本は二回目の作業にとりかかっていた。
「随分溜まってたんだな」
「ん?ああ、これ?」
「ああ、最近やる暇なかったなそーいや」
「誰かさんのせいでな」
「はっはっは」
「笑ってんじゃねーよ」
坂本の恨みがましい視線を受けても、葛西は笑っていた。

ここ数日、雨の時もあったが、それより重大な原因は夜に無理をさせ坂本を寝坊させていたことだった。
昨晩は久しぶりに何もしないで眠りについたのだ。
「嫌がってなかったじゃねーか」
その言葉に坂本は勢いよく振り返った。顔が赤い。
「はははっ」
「ちっ・・・この馬鹿」
そういう坂本の顔も笑っていた。



洗濯を終え、夕飯の買いだしに行き帰って来た時には15時をまわっていた。
街へ出ると、どうしても街の様子が気になり駅やら公園やらを巡回してしまう。
そんな葛西の行動に、坂本も何も言わず付き合っていた。
家へ着き、玄関の鍵を開けた所で電話の音が響いた。
「わっやべっ」
家の主である葛西ではなく、坂本が慌てた様子で中へと入り、リビングにある電話に寄り、受話器を
取る。
「はい、葛西です・・・あ?山中?」
緩慢な動作で中へ入って来た葛西がその台詞に顔を上げたが、坂本へは近寄らずテーブルの傍に座り
タバコを吸い始めた。
顔は坂本へと向けている。
「ああ・・・いるぜ?・・・うん・・・うん・・・葛西」
坂本が顔を葛西へと向ける。
「どうした?」
「今からCOREに来て欲しいってよ。みんないるみたいだぜ」
「あ?なんかあったのか?」
「別に。大した用事じゃないんですけどっつってる」
「・・・わかった」
坂本は電話に向かい直り「今から行く」と告げて電話を切った。
「なんなんだろうな。冬休みに入ったばっかじゃねぇか」
「・・・」
「葛西?」
「あんま考えたくねぇな」
「え?何か知ってんのか?」
「カレンダー見ろ、馬鹿」
葛西の言葉に、坂本は素直に壁に貼られてある(坂本が貼ったのだが)カレンダーに目を向けた。
「24日・・・あ、今日って・・・」
「なんでヤローで集まってんだよ」
自分達のことを見事に棚にあげ、葛西はそう言いながら立ちあがった。






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