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約束3









飯田が去り、中央公園で鬼塚から川島の話しを聞いた。
自分の敵は川島だと思っていたが、前田に毒気を抜かれてしまった。
初めて、こいつにまかせても大丈夫だろうと思えた。
鬼塚と薬師寺と、共に笑い合った。
肩に置かれた薬師寺の手の熱に、初めて坂本以外の人間の体温を感じた。



前田が飯田に「朝に来い」と告げたので、夜を過ごす場所が必要となった。
葛西は三人をCOREへと連れて行った。
マスターに事情を話すと、ふたつ返事で朝までいることを許してくれた。
日中は正道館の生徒で埋まる店内も、夜には一般の客も来ていた。
「結構いい店じゃねーか」
そう言って真っ先に食事を頼んだ薬師寺も、閉店の時間となり他に客がいなくなると遠慮なく椅子に横になり
早々に寝始めた。
最初から落ちつかない様子だった前田は店を出てどこかへ行ってしまった。
鬼塚はまだ寝る様子もなく、ただ葛西の前の席で煙草を燻らせている。



葛西は店に置かれている電話を、座った席からじっと見ていた。
自分で帰した仲間達。
笑顔で帰っていったのは、坂本だ。
葛西が一人でけじめを取ろうとしていることを理解してくれていた。
だがこんなことが起きるとは思わなかった。
葛西は電話から目を離せないでいた。



「誰かに連絡取りたいのか?」
ふと問われ、葛西は視線を外し声の方を見た。
葛西の前で、鬼塚も煙草を吸いながら電話の方を見ていた。
「連絡したきゃすればいいだろ。心配してんじゃねーか?」
何も知らないはずなのに、鬼塚は悟ったような態度だった。
葛西は煙草を銜えて火を点けた。
「そんなんじゃねーよ」
そう言いながらも、葛西は視線を上げることが出来なかった。
心配という言葉が頭の中で反芻される。
いつだって自分のことを差し置いて人のことを心配するあの姿が、頭から離れない。
鬼塚は横に置いていたコートに手を伸ばし、テーブルの上にポケットから取り出したものを置いた。
「使うか?」
見ると、携帯電話だった。
「こんなもん持ってんのか」
「便利だぜ。使いたきゃ使えよ」
あくまで興味無さそうに鬼塚は言う。
葛西は電話を手に取った。
だが少しの間見ていただけで、そのまま鬼塚へと返した。
「いい」
再びケータイがテーブルの上に置かれた。
「いいのか?」
「ああ。もう寝てんだろ」
その言葉に何故か鬼塚は笑みをこぼした。
今度は鬼塚がケータイを手に取り、じっと見る。
そんな鬼塚の様子に、葛西は尋ねた。
「てめぇこそ使わねぇのか?」
「・・・起きてると思うけどな」
「あ?」
「多分寝てねぇな・・・いつも心配ばっかかけちまう」
鬼塚は自嘲気味に言った後、ケータイをまたコートへと仕舞った。
葛西ももう何も言わなかった。




目を開けると、既に夜は明けていた。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
葛西は起き上がった。
無意識に、ベットの半分に寄って寝ていた。
空いている隣をじっと見る。
失いたくない姿が、そこにはなかった。






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