会えなくなると分かり切っていた春休み。
わざわざ約束なんてことはしなかった。
それが、こんなにイラつくなんて。
それでも、意地もなにもかも捨てるなんて程、大人でもなくて。
会いに行くことも躊躇われてしまう。
「・・・がっ!!」
苦しそうなうめき声を上げて、また一人葛西の目の前で男が倒れた。
深夜の池袋中央公園。
ヤボ用で外出し、帰ろうとしていた葛西は、いつものごとく絡まれた。
学生服を着てこんな夜中に一人でうろついている金髪は、退屈していた不良の輩にとっては恰好のカモだった
のだろう。
その中学生の実力を除いては。
「もう終わりかよ」
自分より上背があっても、高校生の三人組でも、イラついている葛西の敵ではなかった。
葛西はフンと鼻をならし、タバコを銜えてその場を後にした。
これが、自分が進学しようとしている正道館の生徒だったらもうちょっと手ごたえはあったのだろうか。
強いとは聞いているが、まだやりあったことはない。
まぁまだ一年あるけどな。
タバコを吸いながら一人そこまで考えて、「一年」というフレーズに葛西は立ち止った。
一年。
日にちなんて覚えてはいないが、もう一年になる。
「親友」なんて、自分には不必要なものだと思っていた。
一年前。中学二年の始まりの日。
葛西は学校へ行く途中、カツアゲの現場に居合わせた。
いかにもな風情の学生が数人、なんだか大人しそうなやつを囲んでいた。
助けるつもりなんて毛頭なかった。
ただ目障りだったので、囲んでいる奴を殴ろうとしたら、その大人しそうな奴が先にそいつらを殴り飛ばした。
結局は葛西も参戦して、最後に立っていたのはカツアゲされていた生徒と、葛西の二人だった。
その生徒は葛西のことを知っていた。
「坂本だよ。よろしく」
自分に対して恐れも羨望も感じさせないその笑顔に、葛西の時が一瞬止まった。
それからは自分でも不思議なほど、一緒にいるようになった。
同じクラスになったのは偶然だった。
教室でも坂本は自然に葛西に話しかけてきて、それは全然不快ではなかった。
何度も一緒に喧嘩をし、何度も一緒に笑いあった。
坂本が隣にいるのが当たり前になってしまった。
親友という立場で納まればよかった。
友情という感情で終わればよかった。
葛西がタバコの煙を吐き出した時、後ろから声がした。
「葛西?」
幻聴かとも思えるその声に振り返ると、暗い夜空の下、私服姿の坂本が立っていた。
「坂本・・・」
信じられず葛西が名前を呼ぶと、坂本は一瞬泣き出しそうな顔をした。
その雰囲気も、葛西の名を呼んだ声も。
普段から考えられないぐらい頼りないものだった。
だがそんな様子を見せたのは一瞬だけで、坂本はすぐにもとの調子に戻った。
「何やってんだ?こんな時間に」
「てめぇこそ何やってんだよ」
葛西はイラついていた。坂本は時々こうやって壁を作る。見えないフィルターを作る。
そして、そんな壁をぶち壊したくなる。全て知りたくなる。
こんなことを思うのは坂本だけだ。どうしようもない感情を、持ってしまった。
「別に。なんでもねーよ」
葛西は平気そうにそう言う坂本の腕を引き家へ向かった。
後ろで坂本がひどく安心した顔をしていたのには、気づかなかった。
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