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夏の思い出 1









「なぁ・・・どうすっかこれ・・・」
昼下がり、まだまだ厳しい日差しの下、リンが項垂れている。
場所は池袋中央公園。
夏休みともなり、それほど広くない公園では老人がきつすぎる日差しの中日向ぼっこをしていたり、小学生ぐらいの
子供が父親と遊んでいたりしている。
普段この公園を占領している、池袋で一番恐れられている学校の輩は、今は見当たらない。
そんな中、石で出来た階段に、リンは座って(項垂れて)いた。
手には、一枚のチケットらしきものが握られている。
「一枚のチケットで、四人なんだろ。誘う奴らなら決まってんじゃねーのか」
同じく石の階段に、暑そうに座っている西島がリンの迷いに対して的を得た答えを返した。
リンと同じく私服だが、見た目の問題は髪型だけのリンと違い、私服姿の西島は到底高校生とは思えない風貌だった。
それはトレードマークのグラサンを取ったとて、変わりないだろう。
「わかってんだよ・・・俺だってそのつもりなんだけどよ・・・」
「じゃあわざわざ俺を呼び出すんじゃねぇよ。電話で済む話だろ」
暑さのせいか、西島の口調は少しばかり苛々としている。
「だってよ・・・だってよ西島!考えてもみろ!あの二人だぞ!あの二人と泊りがけなんてしたいと思うか??!!
おまけに同室なんだぜ!!」
リンの叫びは、悲痛だった。
「俺は嫌だ・・・あいつらと同室で一泊なんて・・・なにがあるかわからねぇ・・・」
「考えすぎだ馬鹿。あいつらだってそこらへんわきまえてるだろ」
「だといいけどよ・・・」
「そんなに嫌だったら行かなきゃいいだろうが」
「俺は行きたいんだよ!!」
リンは項垂れていた顔をガバリと上げて訴えた。
「海に!!」



リンが、母親からもらってしまった一枚のチケット。
一枚で四名様ご利用可の、湘南の海沿いにある宿のご招待券(交通費込)だった。
そしてチケットにはこうも書かれてあった。
「四名様同室とさせて頂きます」
当然と言えば当然だ。






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